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「新菜ー」
振り向くと屋上のドアから、ひな子と柚が入って来た。屋上に一歩足を踏み入れると同時に、柚の長い柔らかそうな髪が青空へ舞い上がる。
「4月に入ったのにまだここは寒いよねー。教室に新菜がいないから、ここかなって思ったけど」
そう言いながら、ひな子は持っていたカーディガンを羽織って肩をすくめた。
最近は何か考え事をしたい時はここへ来ることが多くなった。
もちろんSSFの話し合いで、みんながここへ集まるけど、それ以外でも1人ここへ来る。今まで入ることなんて出来なかった場所だから余計なのかな、ここがすごく落ち着ける場所になっていた。
「新菜ちゃんどうかしたの?」
「え?」
「最近、新菜ちゃん変わったよねぇ。っていうか、春休み明けたら変わった気がする~」
「え? そう?」
「うん、アタシもそう思ってた! なんていうか穏やかっていうか、顔つきが優しくなったっていうか」
「うん、そうそう!」
「えー? そうかな? 自分では何も変わってないと思うけど」
2人が口を揃えて言うことに、私は不思議に思い、首を傾げた。
確かに前みたいに、ママのことでイライラすることも、暇をもてあますことも少なくなった気はするけど。SSFのことを考えていると、いつもそのことで頭がいっぱいになって、余計なことを考えなくて済む気がする。