「……さっきの男たち、蒼生くんのこと知ってるみたいだったけど……。蒼生くんの名前も言ってたし」

 蒼生くんのこと恐がって逃げていったような……。

「……昔ちょっと俺も悪さしてたから。それで俺のこと知ってたんじゃないのか」

「悪さ?」

「まあ、ちょっとな……」

「ふーん」

 なんとなく歯切れが悪い。

 昼間と夜じゃ顔を変える街。この街のように、蒼生くんも私の知らない顔を持っているようで少し切なく思えた。

「……送ってくよ」

 蒼生くんはそう言うと、もうすでに少し先を歩き始めていた。早く歩き出さないと蒼生くんを見失ってしまいそうな、そんな街灯の少ない路地で私は立ち止まる。

 大通りへ出れば眩しいくらいのネオンが煌めいている、そんな街なのに、路地を入ってしまえばこんなにも暗く印象が違うなんて。この街のイメージだけでは何もわからない。

 それは、人間も同じなのかもしれない。

 見た目や言動だけでは、その人の奥にある何かなんて想像もつかない……。

「……」

「新菜?」

「……まだ……帰りたくない」

「……何かあったのか?」

 うつむく私に、戻って来た蒼生くんが小さく言った。