その時、翔太が「アンコール!」と武下樹に声をかけた。
それを聞いた周りからも「アンコール」の声。
武下樹はその声に笑顔で再びピアノを弾き始めた。
誰でも1度は聴いたことのある有名な曲。人気のボカロ曲で、歌詞は明治維新の時代を舞台にしているという。ピアノ演奏で車のCMソングとして採用された。
聴き覚えのある曲にみんなが一斉に拍手をする。
「さあ、陸の出番だ」
「……」
陸くんは無言のままうなずいた。
『謝りたい』と言った陸くんの悩みを解決するために蒼生くんが考え出した解決策は、このピアノ。
背中を押され、陸くんはピアノまでゆっくりと歩いていく。ピアノの横に立った陸くんを見上げた武下樹の指が、一瞬止まった気がした。
だが、そのままピアノは続いていた。
そして陸くんの指がそっとピアノに触れる。
武下樹の一瞬の動揺。
遠くから見つめた陸くんの指が震えているように見えて、メンバーみんなが息を飲む。SSFメンバーみんなにも緊張が走った。
武下樹のピアノに合わせるように、陸くんもピアノを弾き始めた。ピアノの鍵盤が勢いよく弾かれ、2つの音が迫力を増し、駅構内に響き渡る。
「すごい……」
柚の声が漏れた。