「自殺未遂までした武下樹がピアノを辞めなかったのはなんでだと思う? ピアノが好きだったからだ。大切な友達を失っても辞めることをしなかった、それくらい自分にはピアノというものが大切だったから」

「……」

 蒼生くんの話に陸くんは切なそうに武下樹を見つめた。

「1人ひとり個性は違う。違って当たり前。それを妬みや嫉妬の対象にするなんておかしな話なんだ。自分の個性を良い方向で活かしていこうと思えるかどうか。それで生きていく道は変わっていく」

「……」

 蒼生くん……。
 なんて重い言葉なんだろう……。

「武下樹は辛い過去を抱えていても、生きて成功する道を選んだ。その思いは簡単なことじゃない。陸はそれをどう思う? 今の武下樹と、自分と。人は何度でもやり直していけると、俺は信じている。陸はこれから、どちらの道を選ぶ?」