ピアノを弾き終わった人が笑顔で立ち上がると、大きな拍手が起こった。そして、背中を押されるように次にピアノに座ったのは、陸くんが謝りたいと言った武下樹だった。

 蒼生くんが考えた解決法は“ピアノ”だった。

 幼馴染だった陸くんと武下樹は、幼い頃からずっと同じピアノ教室に通い、良きライバルであり親友だったという。その武下樹がピアノの才能を見せ始め、それが元でイジメに遭いだした。

 イジメが原因で2人が離れ離れになった後、陸くんはピアノを辞めてしまったが、武下樹は現在もピアノを続け、高校生ピアニストとして有名だという。 その武下樹を探し出すことは容易かった。武下樹の友達つながりに、ひな子の友達がいて、今日この駅に誘い出してくれたのだ。

 戸惑いながらもピアノを弾き出した武下樹は、慣れてくるとその才能を発揮し始めた。
 流れるような指先、まるで周りに誰もいないかのようにピアノの音に集中する。とても気持ちよさそうに弾くその姿に、陸くんは目を細めた。