私は蒼生くんのマンションの前に来ていた。

 すぐ近くにある公園に建てられた時計台の時刻はもう16時になろうとしている。

 連絡しても、マンションのインターホンを鳴らしても蒼生くんがいる様子はなかった。でも、ここでしか蒼生くんを待つ術はなかった。

「新菜……」

 マンションに続く緩やかな坂を上がって来る蒼生くんの姿が見えた。

 買い物でもしてきたのか、私服姿の蒼生くんは、大きなビニール袋に何かたくさん買い込んできたようだった。

「さっきの話の続きがしたくて!」

 私が大きな声で言い切ったことに、驚くように蒼生くんは目を丸くした。

「……言ったろ。俺は病院には戻らない」

「なんで!? お母さんがそう言うことが嫌なの!?」

 早足になる蒼生くんを追いかけるように、私も坂を駆け上る。