もっと蒼生くんのことが知りたくて。

 もっと蒼生くんに近づきたくて……。

 本当は“彼女のふり”なんて嫌なんだよって言いたくて。

 ドキドキという心臓の音に合わせるように、どんどん顔が熱くなるのを感じ、掌で顔を覆った。

 蒼生くんのことを思い出すだけで、溢れそうになる想い。

 それを私は、いつかちゃんと蒼生くんに伝えたいよ……。

「……」

 顔を覆っていた掌が、カタカタと震えに変わった。

 目の前には蒼生くんと、年上に見える綺麗な女性がマンションに入っていく後ろ姿。

 蒼生くんのことを想い、震える胸が、ドクドクと嫌な音に変わり始めていた。

 震える足が止められなくて、近くの石段にうずくまった。膝を抱え、隠した顔を上げることも出来なくて……。

 私は何を勘違いしていたんだろう……。

 私は蒼生くんのなんでもないのに……ちょっと特別なんじゃないかって思って……。

 ホント、バカ……。

 溢れた涙は、いつの間にか大粒の雨に変わっていた。