イライラした気持ちは自然と早足になった。
こんな時間に行くあてなんてない。友達だっていない。
結局、私はひとり――。
どこをどう歩いて来たのか、いつの間にか私は、蒼生くんのマンションの下に来ていた。高い、高い、マンションを見つめたって、蒼生くんの部屋は見えるわけはなくて……。
何度もスマホを握ってはポケットにしまうを繰り返していた。
『新菜を守るから』
以前言ってくれた蒼生くんの言葉がずっと気になって……。
彼女のふりをしている私が傷つくことに責任を感じたのか、どういうふうに思っているのか、なんだかいつもミッションのことばかりで聞きたくても聞けなかった。
私っていつもこう。
聞きたいことを聞けずに、言いたいことを言えずに……。
伝えたい大切なことを、話せずに……本当に情けない。
いつの間にかイライラしていた母親のことから、頭は蒼生くんのことでいっぱいになっていた。
蒼生くんと出会って、SSFのことを考えるようになって、頭の中の100%を占めていた母親のことが、今は蒼生くんでいっぱいになっていた。