「ただいまー」
「おかえりー」
「……」
気まぐれで言った「ただいま」に「おかえり」なんて返事が返ってくることに、ギョッとする。
見るとキッチンで何か楽しそうに作っているママの後ろ姿。
「新菜お帰り。ご飯作ってるから」
「……」
今日はご機嫌がいいんだな。男と上手くいってんのかな。
「……はぁ」そう考えながら、くしゃくしゃと髪をかきあげた。
なんでこんなふうに嫌味なこと考えちゃうんだろ……。
私ってヤな奴なのかもしれない。
でも、ママのそのコロコロ変わる態度にも、いつもついていけない。
ママはお嬢様育ちだから、きっとわがままに育ったんだろう。おじいちゃん、おばあちゃんの接し方を見ればすぐ分かる。こんな大きな家を建てられたのも、パパがずいぶん頑張ったんだって分かるし。それなのに自分のわがままで離婚して、自分が働かなくちゃいけないことにイライラして。まるで、わがまま子供が大人になったような人。
こんな気分屋なところも、隠さず出せてしまうところがすごいと思う。
私は、こんな大人にはならないと、いつも思う。
「いてっ……」
忘れかけていた傷口にピリッという痛みが走って、一瞬イラっとする自分がいた。
刃物で切った指先の傷は案外治りが悪かった。