灯りのない薄暗い音楽室は、昔からある音楽室の怪奇現象のような壁にかけられた肖像画が異様な雰囲気を放っていた。大きな窓から入る茜色の夕焼け空がその雰囲気を少し和らげているように思えた。
音楽室に呼び出されたのに誰も居ないことに、吉岡先生は何度も周りを見回している。
『吉岡先生、ようこそ』
音楽準備室から音楽室へのスピーカーに声が届くように翔太が配線をしていた。
「誰だ!? こんな嫌がらせめいたことをするのは!?」
『嫌がらせ?』
蒼生くんの言葉に吉岡先生が動揺しているのが分かる。
美術室の様子が見えるように小さなカメラも仕込んでいた。
パソコンに鮮明に映し出された吉岡先生の姿。こんな仕組みを作れる翔太とひな子のすごさに2人の顔を覗き込むと、その後ろにうつむいた柚の姿が目に入った。
「……」
柚にも吉岡先生の声は聞こえているはずだ。画面に目を向けようとしない柚の姿に胸が痛くなった。
『どうしてこんなことになったのか、その理由はわかりますよね?』
「……なんのことだ」
『いまさらとぼけなくてもいいですよ。吉岡先生のことはすべて調べさせていただきました』
「……」
『あなたはしっかりした大人だ。どうしなければいけないのか、わかっているはずだ』
「……なにが目的なんだ? 教師にこんなことして済むと思うな」