「なんだ……これ」
「ちょっと待ってよ。この教師って……」

 蒼生くんへ振り向いた翔太の顔は怒りに満ちていた。動揺しているのは、翔太もひな子も同じだった。

「蒼生くんっ!」

 私は居てもたってもいられず声を上げた。

 考えたくない……。

 まさか……まさか、この教師が……。

吉岡(よしおか) 大翔(ひろと)

「吉岡先生!?」

「まさかっ……」

 蒼生くんの口から発せられた名前にみんなが固まった。それは考えもしなかった人の名前。みんなが慕っていた人の名前だったから。

「まってよ! 吉岡先生なんて……」

「ひな子……」

「だって……柚は……」

「……」

 ひな子は知っているんだ。

 柚の気持ちも、吉岡先生と柚の関係も。

 男勝りで、クールで物怖じしないひな子が、崩れるように座り込んだ。

「ひな子!」

 私はひな子を抱きしめた。

「新菜……どうしよう……。柚になんて言ったら……」

「ひな子……」

 悔しかった。

 何も知らない柚にこんなことをするなんて……。

 それが教師なんて、許せなかった。

 私は蒼生くんへ振り向いた。

 真っ直ぐ私を見つめる蒼生くんの視線。蒼生くんはそっと目を伏せると小さく頷いた。