「新菜は、この写真を1時間半も眺めてたんだ」

「え!?」

「ずっとこの写真を見上げてた」

「そんなに、見てたんだ……私」

 そんなこと、全然気付かずに……。

 あの時はなぜか、この写真に出会えたことで胸がいっぱいで、自分の中に何も入ってこなくなっていた。

 感じた通り、すべてが無音で、電車の音も、人々の足早に行き交う雑音も、何もなかった。

 私の世界が止まった。見つめる先は無色で、モノクロの世界に覆われているようだった。

「だから、俺は新菜のいる学校に編入した」

「えっ……」

 なに?

 どういうこと!?

「ほら」

 蒼生くんに差し出されたのは綺麗なブルーのグラスに入った麦茶だった。

「あ、ありがとう」

 突然渡されたこの安心する味に、私は無意識にクスッと笑った。