見つめた先、ドクンと心臓が大きく鳴った。

 見たことのない……ううん、もう記憶にもない、ママの笑顔。

 そんな笑顔を向ける相手、スラッと背の高いスーツを着た男性の姿。ママよりもずっと年上に見える。嬉しそうに腕を組み、なんの躊躇もなくホテルに入って行った。

「……」

 なんだろう、このふつふつと燃え上がるような苛立ち。

 そして、虚しさ……。

 私のために遅くまで働いているなんて、私のために休みもないんだって、全部ウソ!

 その男と会いたいからじゃない!

 ……気持ち悪い……。

 ママも、男も……みんな……。

 私は帰ろうと歩きだした。

 そして、また立ち止まる。

「……」

 いったいどこに帰るの?

 ママとなんて顔を合わせたくない……。

 あんな家、帰りたくなんかない!