店の雰囲気に合わせたピアノ音楽が、いつの間にか曲調が変わり、お客さんたちもそれに気づき始めていた。

 その音楽は聴いたことのある、ミュージカル音楽。有名な映画のテーマソングだった。その映画は公開前から有名で「歌を聴くだけで泣ける」というふれこみで話題になっていた。

 実際に観た時の感動は私もしっかり覚えている。

「私は負けない。これが私なんだ!」そのメッセージ性に、いつか自分と重ねていた。

 陸くんのピアノの強さと優しさが、その時のことを思い出させた。

「どうして、この曲を選んだの?」

「……」

 私の質問に蒼生くんは、すぐに答えることはなかった。何かを考えるような、何かの思いを馳せるような……そんな……。

 すると、店内の真ん中にかけられたプロジェクターのスクリーンの画像が消え、店内のメインの灯りも消えた。一瞬お客さんの驚きの声が聞こえたが、すぐに点いたダウンライトにホッとしたのか意識は食事へ戻っていった。