「両親の仲が悪くて、共働きだから家族が揃うことはほとんどない。子供の詩音をお互いに押し付け合うような扱いで、そのくせちゃんとした大学を出ないと格好悪い、そんな歌手になるなんて恥ずかしい事はやめろって言っているらしい」
「そんな……」
「ちゃんとした大学へ行っているというだけで、自分たちの評価も上がるし、自分たちの不仲も近所にバレることはない。そう思っているんじゃないか」
「……」
ちゃんとした大学を出ないと格好悪い……世間体を気にする親……。まるでうちの母親みたい。だから私は、この春見詩音って人のことが気になったのかな……。
「父親の母、春見詩音にとっては祖母が歌がとにかく上手かったらしい。自分の理解者は『おばあちゃんだけ』そう思っていて、祖母の叶えられなかった歌手という夢を私が叶えるんだと頑張っていたが、その祖母が半年前に他界」
「他界……」
「自分にはもう味方がいない。歌手になることも諦めなければいけない。そう絶望的になっていたらしい」
「そんな時、このSSFの噂を聞いた」
調べてくれた翔太とひな子の話に、集まったみんなは無言になった。
無言のまま空を見上げる蒼生くんの横顔を見た。
何とも言えない切ない表情。
蒼生くんはいつも、ターゲットの悩みを翔太やひな子から聞くと、こうやって切なそうな顔をして空を見上げるんだ。まるでその悩み事をすべて自分が包み込むように……。
「親の勝手な都合で、子供の夢が失われるなんてあってはいけないんだ」
――次のターゲットが決まった。