「……小器用?」
「なんでもそつなくこなしていくっていうか。嫌味ではないんだけど」
「嫌味とは受け取ってないけど」
「ならよかった!」

その名のとおりに太陽の陽に似た、明るく朗らかな性格は高校の時から変わりがないようだ。
お酒を片手にあけすけに物を言うのは高校時代にはなかったかもしれないが。
特に目立ってクラスの中心にいるわけではなく、運動ができるわけでも成績が良かったというわけではないはずだ。
けれど存在感がないわけでもない。
こうして学生時代を思い出せるくらいには印象にある。

彼女のことを悪く聞いたことがあまりない。
おそらく地頭が良いというか、賢くて立ち回りが上手いのだろう。
そしてそれだけではなく、傍目から見ていても本当に優しくて実直な印象だ。
周りから慕われ、自らも周りと壁がなく接しているように見えたその姿に、もしかしたら当時の僕は憧れに近い気持ちを抱いていたのかもしれない。

「どうだろうね。そつなく、というよりは単に口下手なだけだよ」
「そうかなー。口下手っていうよりは……立ち回りがうまいというか、距離感がうまいというか」

二十歳の節目を迎えた僕達は合法的にようやっとお酒が飲めると同窓会を企画し、今に至る。
若い盛りの酒宴の場というので、周囲はひと盛り上がりしている。
それを目視して、陽奈子は続けた。

「ちゃんと雰囲気楽しんで、けど、どこか一歩冷静でさ?本気で楽しかった事とか、本気で悔しがることとか。ないことは無いんだろうけど、それを表に出さないでいる感じがするよね」
「そうかな?」
「どうだろ?」
「自分で言っといて、なんだそれ」
「表に見えるだけが本当じゃないことは分かってても、見えた方が得なこともたくさんあるよねぇ」
「それが出来れば苦労はしないよ」
「やっぱ自覚あるじゃん」
「話に乗っただけだろ?」
「でもね。表に出さないってことも本当はすごく難しいことだから、すごいと思うよ。どっちもすごい!」

そう言い切る彼女は、僕からしたら眩しいくらい本心に忠実で、思えば学生時代も彼女の周りには人が絶えなかったなと思い返した。

大学生、社会人、各々の立場から少し時を巻き戻したかのように気のおけない友人達と昔は酌み交わせなかった酒を交わす。
羽目を外しすぎないよう、クラス全員ではなくまだ連絡を取っている仲間内での同窓会とあって、盛り上がりながらも酒を強要したり、潰れたりというところは見られない。
そんな周囲の様子を見ながらマイペースに飲んでいると、陽奈子に声を掛けられたのだ。

程よい距離感で、近すぎず遠すぎず。
久々に会う旧友たちとの酒宴は楽しい。
それを表に出し切れてはいないのかも知れないけれど、こうして誘ってもらえる程度には仲がいいやつがいる。

「……確かに、そうなのかもな」

素直な心を表に出せば、その分喜びも大きくなるかもしれないけれど、その分傷つきやすくもなる。
僕はただ、それが怖くて先に距離を保っているだけなのかもしれない。
予防線というやつだ。
それが陽奈子から見れば小器用というふうに映るのだろう。

僕からしたら、素直で、でも理知的な陽奈子にとても惹かれている。
もしかしたら学生時代からずっと、心の奥に燻っていた伝えられなかった気持ちが今また熱を持つ。
彼女の横顔が、綺麗だ。

「たまには素直になってみるのも、いいかもな」
「なに?」
「芦原、今度ふたりでデートしない?」

驚いた陽奈子の顔は、ずっと忘れられないだろう。



それからさらに年月を経て、僕らの付き合いは3年になろうとしている。
僕は未だに、彼女に惹かれ続けている。

これは。

――生きることに割と慎重だった僕、大石学(おおいしまなぶ)と、生きることを謳歌する芦原陽奈子の物語である。