『依里ちゃん、刺繍が上手ね。髪に結ぶリボン?』
『ううん、お人形に着けるの』
『お人形用にこんな上等な絹を使うの? やっぱり依里ちゃんてお嬢様なのね』
 依里が手にしているのはわたしの目隠しだ。学校だろうか。知らない女の子たちに囲まれて依里が笑っている。
 一瞬見えた場面にとまどっていると、また新たな場面が目に浮かんでくる。依里がわたしの髪を丁寧に梳いている。その手が先ほど依里のさしていた菊花の刺繍をなでる。
『お嬢様、わたしお嬢様を本当に好きなんですよ。一生お仕えしますね』
 見えないはずの目が次々に依里の姿を映しだす。それは依里の記憶だった。
 その中に私のように目隠しをされた人形の姿があった。埃をかぶったピアノの上にそれを置くと、『陽太なんか消えてしまえ』そんな依里の思いが冷たい雨がしみ込むようにわたしの胸に伝わってくる。