中庭に出る少し前で足を止めた。押村さんたちの様子を窺いたかった。けれど、青園が「押村先輩と夜久先輩が抱き合ってる」と声を上げた。ばか、と言いたかったけれど、その声でこちらを向いた綸が、押村さんにぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、「高野山君っ……」と助けを求めてきた。「折られる」と。

 「高野山先輩、か弱い女の子を助けてあげないと」と青園がからかってくる。

 おれは一つ息をついて、「押村さん」と声を掛けた。「綸……ごめんね、ごめん……」と泣きながら、縋るように綸を抱きしめている。

 綸は「なんか、この人怖いんだ」と、困惑した様子で言う。

 「いきなりまじめな顔で詰め寄ってきたと思えば、急に泣き出したんだ」

 おれは口元に指を揃えた手を添え、「押村さん」と呼び掛けた。「綸、困ってるよ」と。

 「別に、怒ってないから」と、綸が戸惑ったように言う。「泣かないでよ」と。

 「綸もこう言ってますよ」と言ってみると、押村さんはようやく綸を放した。

 綸は押村さんの頬を拭うと、「ごめんね」と柔らかな声を発した。「あたしは大丈夫だから」と。それにさらに押村さんが泣き出すものだから、綸は困ったと言うようにおれを見た。

 「だって……私のせいで……」と言う押村さんへ、「大丈夫。……なにも悪くない」と言う綸を見て、おれの中で、ほんの少しだけ――気のせいとすら言ってしまえそうなくらいに、なにかが変わったのを感じた。