ホームルーム後、気が付けば押村さんはいなくなっていた。どうか二人が笑えるようにと願う。今すぐじゃなくたっていい。明日でも明後日でも、来年だっていい。このままずっと、二人がそれぞれ、あんな悲しい顔をするくらいなら、何年先であっても、笑ってほしい。

　階段を下りる途中、「高野山先輩じゃないですか」と声がして振り返ると、青園だった。一年生の教室が並ぶ廊下から出てきた。

　「押村先輩はいないんですか？」

　「ああ、うん。やりたいことがあるんだと思う」

　「はっきりしないですね」ときっぱり言う青園に、おれは苦笑する。

　「青園は？　今日も中庭行けるの？」

　「……なんですかいきなり。なんか物騒な儀式でもやるんですか」

　「違う違う」とおれは笑い返す。「世間話ってやつ」

　「ええ、行きますよ。高野山先輩は？」

　「おれも行くよ」

　「日垣先輩はどうなんでしょうね？」

　「どうだろう……くるんじゃないかな」

　「私たちって、本当に暇ですよね」と青園は笑う。「自分のこともさっぱりわかってないのに」と。

　「わかってないから暇なんじゃない？」

　「どういうことです？」

　「自分がなにをしたいのかとか、どんな風に在りたいのかとか、わかってないからさ。でも、改めてどうしたいのかとか考えない。考えることも追い求めることもないから、こんなに暇なんだよ。放課後、意味もなく中庭で屯するくらい」

　青園はふっと苦笑する。「よくわかんない」とからかうように笑う。「おれもわかんない」と同じように返す。――だから、暇なんだ。

　「でも、気楽ですね」と青園が言った。

　「そうだね」とおれは応えた。