昼休み、一緒におにぎりを食べた。偶然、二人しておにぎりを持ってきていた。そのうち一つは具が梅干しで、押村さんは「奇跡だ」と明るく言った。

 放課後の中庭、いつものベンチに、青園がいた。彼女の前には、綸とヒガキ。三人は楽し気な雰囲気の中、談笑している。

 速い呼吸が聞こえて見れば、押村さんが怯えたような顔をしていた。

 「押村さん、大丈夫?」

 幽かな声を漏らすと、半歩、後退る。

 「綸……」と呟く。「綸だ……」

 確かに、青園の前に、ヒガキの隣に、綸はいる。けれど押村さんの言いたいのは、きっとそういうことではない。

 まさかと思って振り向くと、綸は穏やかに笑っている。押村さんの言葉を理解した途端、震えるような衝撃が走った。胸の辺りに、胃の辺りに、変な感じさえ抱くほど。

 ああ、あれが本当の綸なんだ。押村さんが救えなかったと、壊したと悔いる、夜久綸なのだ。

 「……大丈夫?」

 「うん……」

 水買ってくると言って、押村さんはピロティへ走っていった。

 おれは綸の方を向き直る。そうか、綸の本当の笑顔はあれなんだ。押村さんの護りたかった笑顔は、あれなんだ。だけど――。

 戻ってきた押村さんは、水のペットボトルを日本持っていた。「奢り」と言って一方を差し出され、お礼を言って受け取った。

 水を一口飲んで、「悲しいでしょ」と押村さんは言う。「とっても」とおれは頷いた。綸の笑顔のことだ。

 「前から、あんな風に笑ってたの?」

 「そう。すごく綺麗で、控え目で。あんなに悲しそうなのは……」

 きっと、と、押村さんは歯を食いしばる。その強い感情がどこへ向いているのか、おれにはわからない。押村さん自身か、親戚たちか。