声のした左方には、綸がいた。隣に小柄な女子がついている。

 「似てる人がいるなと思ってきてみたんだ」と綸は言う。「この間はありがとうね」と。

 「ああ……うん……」とおれは曖昧に応える。

 綸は物憂げな目を柔らかく細め、「ヒガキさん」と隣にいる女子を紹介した。「ヒガキホノカです」と彼女はぺこりとお辞儀をする。「高野山空です」、と同じように返すと、「青園千歳です」、「押村明美だよ」と二人が続いた。

 この感じはなんだろう。不気味、という言葉がよく似合う。相手は見知った人のはずなのに、そうではないような、自分は自分であるはずなのに、そうではないような、二人の友達さえも、普段のその友達とは違うような、不安を煽る違和感にどんよりと包まれているような感覚。近くにいる人皆が、数秒後にはその皮を脱いで化け物が現れそうな、深い恐怖感。実際の空は青く澄んでいるのに、濃い雲に覆われているようにすら感じる。

 「どれくらいぶりだろうね」と綸が言った瞬間、場の空気が変わった。

 なんだ、絶対なにかがおかしい。なにかが、誰かが。――いや、おれはその正体に気づいている。それを認めようとしないだけだ。……綸が、綸じゃない。あの日は取り乱していたし、落ち着いてからも喉を傷めていたのでそれで納得しようとしていたけれど、そうじゃない。彼女は、おれの知っている彼女では――綸ではない。