押村さんは、青園の消えゆく、下手な吸って吐いてをも包んでいた。そしてそれがもたらした、静寂さえも。

 「大丈夫」と、押村さんは言った。最後のそれは、どこか背中を押すような強さを感じさせた。

 青園は姿勢を正すと、ぼんやりとした様子でどこか先の方を見つめる。目元や頬には涙の跡が残っている。

 押村さんの大きな目につられて、おれは天を仰いだ。小型犬はいなくなっていて、雲一つない青空だった。

 「晴れたね」と押村さんは言う。

 「雲がなくなった」と、おれは応えた。

 前を向き直ると、青園がこちらを見ていた。目が合ったので、笑い掛けてみる。

 「上、綺麗だよ」

 青園はゆっくりと天を仰ぐと、「本当だ」と呟いた。おれはなんとなく、青園はもう大丈夫だろうと思った。