「周りのみんなは、その子のことが好きじゃないみたいなの」

 「どうして」

 「わからない」と押村さんは首を振る。

 「だけど、誰も滅多に話し掛けないし、一緒にいるところもあまり見たことがないの」

 「……親戚なのに……」

 「そう。親戚なのに。私の周りには面白いドラマってまるでなくてね、その子は普通の女の子だし、人間だし、混じりっけなしの日本人。お父さんも至って普通の物腰柔らかな男性だし、お母さんは私のお母さんと同じような人。私のお父さんも同じだよ。極々普通の男の人。私とその子は、なにも違わないの。なのに、その子だけみんなと距離を置いてる。浮いてるっていうか、孤立してるっていうか。学校での話じゃないんだよ、これ。一般家庭の親戚同士での話」

 「……なにか、きっかけとかないの?」

 「なにも。いつからかそうなってた。気づいたらそうなってた。私は普通に、その親戚たちと仲良くしてて、その子は、その子だけが独りになってた」

 押村さんは、はあっと息をついた。ぎゅっと唇を噛んで、力なく放す。

 「あの親戚たちを、許せないと思ってたんだ。今だって思ってる。でもね、なにもできなかった」

 「……怖かったの?」

 黙って首を振った。「違う。なにも思いつかなかったの。だから、ただ一緒にいた。くだらない話ばっかりした」

 「……それのなにがいけないの」親戚の中で浮いているのが寂しいのなら、一人でもそばにいてくれる人がいれば、くだらない話をして笑える相手がいるのなら、それで充分なようにも思える。

 「私はね、ただ一緒にいたんだよ。なんにもしてない。だから、私は親戚よりも、その自分が嫌い。ただ一緒にいて、くだらない話をしてた。あの子の胸の内から逃げたの。……それが、どうしても許せない」