階段を三段飛ばしてぐいぐいと上り、廊下に出ると、どこかの教室から大きな音がした。スチール製のロッカーに、強く足をぶつけたような音だった。窓際の席の時にはしょっちゅう上履きのつま先をぶつけていたので慣れた音のつもりだったけれど、自分の知らないところから飛んでくるその音は、心臓を強く跳ねさせた。それに従って、体もびくりと震えた。この驚きで、未来を三十分ほど失ったかもしれない。

 ばくばく騒いでいる心臓を落ち着けながら、大丈夫だろうかと思いつつ、音の聞こえた方へ進む。というか、自分の教室がそちらの方にあるので、嫌でも近づかなくてはならない。

 二年二組の教室に近づいた時、「ふざけんなっ」と激しい怒声が上がった。女性の声、だと思うけれど、声の高めな男子だと言われても疑わない。せっかく落ち着いてきた鼓動がまた速まる。……喧嘩だろうか?

 おれはそっと、全開になっている扉から、教室の中を窺った。その教室はまさに六組の教室と同じで、窓際にスチール製の低い収納があった。正方形の箱を四つほど連ねたようなものだ。その上に、いくつか鉢植えが置いてある。

それは自分の教室となんら変わらないのだけれど、赤紫のような色の花が咲いている鉢植えは棚の上で転がり、向かって左端に女の制服を着た人――つまり女子生徒ということだろう――がいた。スカートからのびる白く華奢な脚の間に、ズボンを穿いた脚がある。

ここから見ると、まるで女子生徒の脚が四本あるように見える。その女子生徒の前に男子生徒がいるのだろうけれど、女子生徒の体でちょうど見えないのだ。