「しかし、今日も人が少ないですね」と青園が言った。「帰宅部もちゃんと活動してるみたいですね」と。

 「帰宅部なぞ寂しいじゃないか」

 「それほど気楽な部活動はないと思いますけどね」

 「そうかい? 友達とのんびりする時間ってのもいいじゃない」

 「私は先輩たちと友達ではないので」

 「手厳しいねえ」と押村さんはどこか愉快そうに苦笑する。

 「うーん、でもそうだよね、私はとせちゃんのなんでもないんだもんねえ」

 「今更気づいたんですか」

 「てっきりさ、親戚みたいな感覚になっちゃって」

 「大迷惑なんですが」

 「そりゃあごめんって」と、押村さんは青園に両手を合わせる。青園はそれを、ただ迷惑そうに睨むだけだった。態度も表情も変わらないけれど、青園はほんの少し、多く話してくれるようになったような気がする。……気にしすぎだろうか。

 「とせちゃんは、休日はどう過ごすの?」と押村さん。

 「なんですか急に。また面接ごっこですか」

 「嫌だな、世間話だよ。私はくまのぬいぐるみを探しに、はるばる電車に乗ってショッピングモールに行くんだ」

 「私は別に、なにもしませんよ。家にいます」

 「家ではなにするの?」

 「なにも」

 青園の突き放すような物言いに、ああ気にしすぎだったなとおれは思った。

 「ふうん」そっか、と押村さんは言う。「ところで、勉強は好き?」

 「好きな人なんているんですか」

 「だよねえ。私も嫌い」

 「押村さんは、進路どうするの?」と、おれが言った。

 「どうしようねえ。就きたい職業とかまるでないんだよね。将来の夢なんて、正直、健康くらいだし」

 「めちゃくちゃ現実的なこと言うじゃん」とおれは苦笑する。

 「健康第一でしょう。就職とか仕事とか出世とか、まず健康体を極めてからじゃない?」

 「まあ間違っちゃいないけどさ」

 「なのに世間は待っちゃくれないからね。なんで今はとりあえず、そういうのはなにも考えず、ストレスを溜めずに、健康体に近づこうかなと」

 「いや、結局考えたくないだけでしょ」

 「そうとも言うー」とへらへら笑う押村さんにつられて、おれも少し笑った。

 将来か。おれはどうしたいのだろう。なんだか当然のようにここまではきたけれど、この先は自分でいろいろ考えなくてはならない。就職にしても進学にしても、もう誰も助けてはくれない。まるで一人前にでもなったかのように、なんの補助もしてくれない。