校舎に囲まれた空は、綺麗に晴れていた。中庭からは雲も見えない。

 昼休みに、花衣を読み終えた。押村さんがいたずらに変なことを言うので恐恐と読み進めていたけれど、綺麗で温かい終わり方だった。帯にあった通り、確かに全部ひっくり返ったけれども、そうしなければあの美しい結末は描けなかったと思う。

 押村さんに名前を呼ばれて、はっとする。

 「なにぼーっとしてんの」と彼女は笑う。「花衣の世界観、引きずってるの?」

 「おかげで午後の授業、なにがあったか全然覚えてないよ」

 「なにしてんのよ。私、七十二引く三十七を正解して拍手喝采だったんだから」

 「それ多分、二つ前の学校の二年生。てか今日の午後、数学なかったし」

 「ちくしょう」ばれたか、と押村さんは悔しそうに呟く。おれだってとりあえずノートは取ってたから、と苦笑すると、彼女はばっと顔を上げた。「とせちゃん、きてくれたか!」と両腕を広げた。

 「まじか」とおれが言うと、「こないで放っておいてくれるような人たちじゃないでしょう」と青園は言った。ちらと見れば、押村さんは複雑な表情をしていた。