壁のスイッチで点けた照明は、暗がりに慣れた目には眩しくて、真夏の太陽のようだった。しばらく手で目元を覆い、少しずつ目を慣らしていく。

 改めて見る部屋は酷い有り様だった。これを無意識にやってしまうのだから、自分が恐ろしい。彼女がこれを見たら、どんな顔をするだろう。怖がるだろうか、軽蔑するだろうか。

 ――彼女の名前はなんと言ったか。少し考えて、ふっと苦笑する。おれは知るはずもないのだ。おれは今日、彼女から逃げた。彼女に会うのが怖くて、“扉”を開けた。“扉”を開けると、時に氷が溶けるように少しずつ、時に冷房の利いた部屋から夏日の外へ出たように一瞬で、意識が変わる。今朝のおれは、そうしなければ自分を抑えきれないと思った。この世に存在しないはずの自分が存在する一日に、耐えられなかった。

 バケツと雑巾、ごみ袋を持って部屋に戻り、破片を集めながら考える。これから、どうすればいいのだろうと。おれは確かに、この世には存在しない。けれど、そんなおれを知った彼女に、近づきたいと感じてしまっている。