「やあ少女」と声を掛ける押村さんに、少女は昨日と同じ、迷惑そうな顔をした。

 「よくきてくれたね! 嬉しいよ」言いながら、押村さんは少女の手を両手で握った。「ここはのんびり部もどき。私は部長もどきの押村明美。この人は副部長もどきの高野山空」

 「もどき?」と少女は眉根を寄せる。「正式な部活動じゃないんですか」

 「だって、のんびりするだけの部活よ? 頭の固い先生方が部として認めてくれるわけがないし、部室の提供だって惜しむに決まってる。だから、部活もどき。部を設立する手続きも、入部退部の手続きも要らない」

 「……そんな活動、なんのためにするんですか」

 「なんにでも意味があるわけではないのだよ」

 「はあ?」

 押村さんは少女の手を放すと、その隣にどかんと腰を下ろした。大きな目が空を見つめる。

 「この世の中さ、考えることっていっぱいあるじゃん。だから、そういうのと距離を置いた時間を作るっていうのもいいと思わない? そのための場所、それがこののんびり部もどき。せっかく学校側がさ、生徒の休憩場みたいな紹介をするようなこんな中庭があるんだし、使わない手はないっしょ?」

 「……なんでそれに私を誘ったんですか」

 「副部長もどきが見つけたのよ」と、押村さんはおれを振り返る。少女は迷惑そうな目でおれを見た。おれは、すみませんと口の中で言う。

 「ありがとうね」と押村さんは少女に言った。「今日、きてくれて」と。

 「顔を出さないで、またしつこく絡まれるのが嫌だっただけです」と少女は言う。顔中でそれが本音であると言っている。

 「名前、訊いてもいい?」

 少女は深くため息をついた。「アオゾノ」

 「どんな漢字?」

 「青色の青に、公園の園」

 「下の名前は?」

 「チトセ。千歳飴の千歳」

 「青園千歳ね。かっこいい名前だね」

 「あなたは?」と、青園は押村さんを睨むように見た。「どんな漢字書くの」と。

 押村さんはおれに伝えた時と同じように説明した。青園は興味なさそうに「ふうん」と頷いた。

 「あなたは?」と青園はおれも見た。押村さんに伝えた時と同じように答える。青園の反応は押村さんに対するものと変わらなかった。