静寂が戻ったところで、おれは押村さんを呼んだ。

 「どうしたの、あんな熱くなって。らしくないよ」言った直後、こんなことを言えるほどおれは押村さんのことを知らないのだと思い出した。

 押村さんはふっと笑った。

 「なんでだろうね。高野が見つけた人だからかな」

 「なにそれ」とおれは笑い返す。

 「ね、変だよね」と押村さんも笑う。「だけどなんか、我慢できなかった」と。

 知り合い?と尋ねかけた喉と舌の震えを飲み込んだ。尋ねてもいいことがあるようには思えないし、押村さんの様子から、その可能性は低いように思えた。

 「彼女、きてくれるかな」と言ってみると、「どうだろうね」と押村さんは呟いた。「でも、きてくれるって信じる」と。

 「のんびり部、か……」言ってみながら、天を仰いだ。

 「ん?」

 「どうなっていくのかなって思ってさ。おれの高校生活」

 「え、なんかめっちゃ重たいもの託してくるじゃん」と押村さんは苦笑した。

 それを言ったら、押村さん自身がおれの高校生活を背負っているようなものだ。なにせ、押村さんに声を掛けられてから、おれの高校生活が動き始めたのだ。家と学校を往復するだけの日常に他人の温もりが添えられたのは、押村さんが声を掛けてくれたのがきっかけだ。

 「部活もどきにそこまでの青き春を求めちゃあいけないよ」と、押村さんはいつものように笑った。今しがた見せた熱はすっかり引いていた。