教室に入ると、斜め前の席に押村さんがいた。

 机に鞄を置くと、「やあ少年」といたずらっぽく笑う彼女へ「やあ少女」と応える。

 「寝坊かい?」

 「遊んでたら遅れた」

 「遊び……」そうか、と言って、押村さんは考える素振りを見せた。そして、はっと声を出す。「まさか少年、この世のタブーに触れるようなことはしていないだろうな」と強く言う彼女へ、「禁じられてない遊びだよ」と返す。

 「至って現代的な平凡で平穏な」

 「そうか。それならよかった……」

 「おれをなんだと思ってるの」とおれは苦笑する。

 「で、こんなところでなにしてるの?」

 「友達の席で友達を待っていたのだよ」

 「ほう」

 「彼女と今しがた友達になってね」と、押村さんはおれの前の席の女子を言った。「そうしたら彼女、この席の少年と友達だと言うじゃない。友達の友達は私の友達も同然だからね」

 「友達の友達は見ず知らずの他人だと思うんだけど……」

 押村さんは「なっ」と目を見開く。「なにを言うか! 友達と友達なんだぞ、そりゃあ友達だろう!」

 「あー……うん、ね」なんだか難しい話になってきて、こめかみに指を当てる。「うん、そうだ、友達だ」

 「だろう?」と押村さんは満足げに言う。