少年は水筒の中身を飲むと、ずずーっと洟を啜った。頬に残る涙を腕でごしごしと拭って、もう一度洟を啜る彼の頭を、「よしよし」と撫でた。へへ、と照れたように笑う少年の小さな顔に、胸がほっと温かくなる。

 「ね、大丈夫でしょ」

 こくんと少年は頷く。

 「あのね、卵……卵とね、牛乳、買うの」

 「そうなんだね。じゃあ、スーパーに行くの?」

 「うん。やまあい」

 「そっか。おうちはこの近く?」

 「わかんない」

 「どれくらい歩いたかな」

 「わかんない。いっぱい歩いた」

 また少年の顔が泣きそうになるので、「そっかそっか」と頭を撫でる。

 「大丈夫。やまあいも行けるし、おうちにも帰れるよ」

 「本当?」

 「うん。やまあいはもう近くだもん。君が頑張ったからだよ」

 えらいえらいと笑いかけると、少年もふにゃりと笑った。前歯が一本なかった。

 「よし、じゃあお買い物して、おうち帰ろう」

 「うん……。……ねえお兄ちゃん、一緒にきて……?」

 「いいの?」

 「うん、お兄ちゃんと一緒がいい」

 「そっか」

 よしよしと頭を撫でると、少年はふにゃりと笑った。

 じゃあ行こうかと言って立ち上がり、おれは少年の手を取った。汗か涙か、少し湿った小さな手が、きゅっと握り返してきた。