世の中、なにが起きるかわからない。いつか観た映画で、和服姿の美しい女優が言っていた。次に会う友達が、さっき会った友達とは違うかもしれない。明日の自分が、今日の自分とは違うかもしれないと、そんなことを。独特な声で、綺麗な和服姿で。

 その通りだと思った。二年に進級するまで、学校で自分にこれほど親しい存在ができるとは思っていないかった。いや、二年に進級しても、思っていなかった。それまでのおれと、ここ数日のおれは、違うのだ。押村さんと話すようになった。昨日のおれと今日のおれも違う。今日、押村さんとは中庭に行った。

 おれはベッドの上で、天井を眺めた。一度思い出してしまうと、簡単には忘れられない。

 彼女は今、どこにいるのだろう。なにをしているのだろう。あの頃と同じように、無邪気に、かわいらしく、笑っているのだろうか。

 もしもその笑みを、彼女の心を抱いた誰かに向けられていたら、と想像すると胸が苦しくなるけれど、彼女が幸せならばそれでいい、とも思う。でもやっぱり、もう一度、あの笑顔を見てみたい。今の彼女の笑顔を。

 ごろりと横を向いて、頭の下に腕を入れる。

 当時はそれほど好きという感覚はなかったけれど、どうやらそうでもなかったらしいと、今になって気づく。というより、確信する。美術の本に載っている一枚の絵に描かれた少女に、彼女に似た雰囲気を感じて、彼女を思い出しては恋しいと思っていた。

それに対して、もしやと考えてはいたけれど、それが今、確信に変わった。おれは、彼女が大好きだ。彼女は何色もの笑顔を持っていたけれど、いつもその奥に、庇護欲を煽るなにかを抱えていた。それを思い切り抱きしめたい。そしてそれを取り払った本当の笑顔を、見てみたい。

 深く吸い込んだ空気を、はあと吐き出す。――会いたいな――。