中庭へ向かう途中、高野は「あのう……」と声を発した。

 「はい、高野山君」

 「どうかしたの、とは、訊くべきじゃないのかな」

 「なあに、どうもしないさ。私が高野といたいから誘った。それだけだよ」

 「そっか」と高野は頷いた。そして、ぷっと噴き出す。「押村さんって、なんかおじさんみたいな喋り方するね」

 「おっ」と私は彼を振り返る。「お主、そこに触れたな?」

 「え、タブーだった?」

 「禁忌も禁忌よ。私はぴちぴちのジェーケーだぞ。まだまだ肌も、水をころんっころん弾くというのに、おじさん呼ばわりたあ聞き捨てならん」

 なにより私は女だ。それをおじさん、とはなんて失敬な。

 「それはもう、むしろ触れてくれって言ってるように聞こえなくもないんだけど……」

 「お主の感性は独特じゃな。わたしゃ『禁忌だ』と言っている」

 「ああ、はい。すみません……」

 「わかればよろしい」

 少し沈黙を作って、高野は「ねえ」と言った。

 「そういうキャラ作ろうとしてるでしょう」と笑う。

 「お主まだ言うか。おじさんと言われて喜ぶジェーケーがどこにある」

 「いや、だってジェーケーって。おれの親でさえ言わないよ」

 「そりゃあ当然じゃよ。お前の親御さんは私たちよりもうんと年上だ。近頃の言い回しには疎いだろう」

 「ああ、そうなるか……」

 少し後ろを歩く高野から、なにか考えるような気を感じた。ちらと視線をやっても、その整った顔がなにを思っているのか、考えているのか、読み取れなかった。

 「中庭、誰かいるかなあ?」と言うと、「どうだろうねえ」と普段通り返ってきた。