昼休み、私は高野の隣の席に着いた。「この席の主は?」と尋ねると、「何人かの女子と食堂行ったよ」と返ってきた。

 「学食でお昼ねえ。憧れるねえ」

 「行けばいいじゃん。そう高くもないんだし」

 「まあねえ……」

 「なにかポリシーでも?」

 「いや、そういうんじゃないんだけどさ。遠いんだよなあって」

 「え、食堂までがってこと?」

 「そう。もうさ、私も次の誕生日で十七歳になるわけよ。まだまだ若い奴には負けないわよおって気張ってたんだけど」私は「それだけじゃどうにも」と、首を振りながら苦笑した。「いよいよ足腰にガタが出てきてねえ。階段の上り下りがきついこときついこと」

 「いやいや」と高野が笑う。「まだその、ジェーケーってやつなわけでしょう?」

 「ジェーケーは若くないよ。若くない」

 「いやいや、むしろ盛りでしょう」

 「どうだろうねえ。惰性は盛ってるかもしれないけど」

 「惰性かあ……」高野がしみじみ言ったので、私は横目に彼を見る。

 「七つの大罪ってあるけどさ、おれ、そのうち怠惰は毎日犯してる気がするんだよねえ」

 「あ、わかる」

 「今日も授業中寝てたもんね」と笑う高野へ、「おいこら」と笑い返す。

 「でも本当。誰かを見下せるほど高い場所にいるとは思えないし、むやみに食べることもないし、なにかが足りないとは思ってないから嫉妬することもないしで、他は大丈夫なんだよね。そうそうイライラすることもないし。でもね、怠惰だけは避けられないよ。楽したいもん、疲れたくない、だらだらしていたいもん」

 「本当、そうだよね」と高野。「おれたちに学校生活って向いてないと思うんだよ」

 「そうそう。何時間も延々と頭使わされてさ。眠い時に寝ることも許されない」

 「いや、それはでも授業中じゃさ……」

 「なにを言うか。お前さんも怠惰の罪を犯した仲間だろう?」

 「でも授業中はさ……」

 私は大げさにため息をついて見せた。

 「お前さんはまじめじゃのう。まじめ過ぎると言ってもいい。お前さんは罪人には向かん」

 私は保冷巾着からおにぎりを取り出した。「あっ」と声を漏らす高野へ、「ん?」と返す。

 「おにぎりだ」

 「……食べる? 鮭とおかかとツナマヨだけど」

 魚ばっかり、と高野は笑った。

 「いや、同じだと思って」

 「高野もおにぎり?」

 「そう」

 高野は自分の水色の巾着を開くと、中からおにぎりを取り出した。

 「ほう。今日一つ目の奇跡だね」

 「奇跡、か……」

 「そう、奇跡」

 私はいただきますと手を合わせて、おにぎりの包むラップを剥がした。