「で、好きな食べ物は?」

 「え……なんでも好きだよ。でも強いて挙げるなら……そうだなあ、冷やし中華とか、焼きそばかな」

 「ふうん。じゃあ苦手な食べ物は?」

 「あの……これなんの問診すか。数学の後の呼び出しで、生徒の情報を寄越せとか言われたんですか」

 ぶはは、と私は大声を上げて笑った。

 「ちょっと……さっき笑ったばかりなんだからさ……やめてよ、はっ、お腹痛い……ふははっ」

 やはり、面白い人だ。私は必死に気持ちを落ち着けて、深呼吸した。しかしまた笑いがぶり返して、「ぶははっ」と笑う。

 「そんなんじゃないよ」と、ようやく自分を落ち着けてから言った。

 「ただ、私は君に興味がある。高野に興味がある」

 「二回言った」

 「おう、二回言った」と私は頷く。

 「で、苦手な食べ物は?」

 「続くの?」と彼は驚いたように言って、「そうだなあ」と宙を見つめた。

 「特にないけど……甘すぎるものは、三口以降はおいしいって心からは言えなくなるかも」

 「ふうん。その甘すぎるものってのは? ショートケーキとか?」

 「いや、それなら二切れはいける」

 「大福とか?」

 「大きさによるけど、一つは問題なく食べられる」

 「うん、大丈夫だよ。高野にとっての甘すぎるものは、普通の生活してれば食べないで済むよ」

 「そっか」と彼は笑った。ただでさえ細い目を、瞑るようにさらに細めて。その笑顔を見て、私は気が付いた。彼の顔を指さす。

 「歯に海苔ついてる」

 「なっ」と慌てたように声を出して、彼はおろおろした。ブレザーに入っている手鏡を差し出すと、高野はお礼を言って受け取った。すぐに開いて確認している。

 「さては貴様、早弁したな? まったく悪い子だよ」

 「してないよ」と高野は言った。お礼と一緒に鏡が返ってきた。もう取ったはずなのに、もごもごと舌を動かしている。

 「もう済ませたんだ」となんでもないように言う彼へ、「別ジャンルの早弁!」と思わず声を上げた。別ジャンルもなにも、早弁というより早食いなのだけれど、そこは気にしてはいけない。私自身も、高野も。