そういえば、と自分の友達のことを考えて、私は「ねえ」とヤマを呼んだ。「ん?」と彼はこちらを向いた。

 「ヤマって、一緒にここ入った友達っている?」

 「ああ……友達って言えるのは三人だけかな。同じ中学から入った奴はもっといるけど。なんで?」

 「私、一緒にここ入った友達って二人しかいないなって思って。ヤマはどうだろうって。同じ中学からっていうのもそんなにいないしさ」

 「うーん。同じ中学からきた奴は結構いるよ。十人以上は余裕でいるんじゃないかな、公立だし」

 「へええ。え、でさ、その三人の友達って、この二年で同じクラスになれた?」

 「いいや」と彼は首を振る。「だって中学校の倍以上の数、クラスあるんだぜ? それに対して、こっちは自分入れても四人。二年じゃ無理無理。だーれも同じクラスにならない」

 「だよねえ」

 「まあ、昼休みとかに見かければダル絡み仕掛けにいくけど。押村も行くっしょ?」

 「いやあ、でもさ、新しい友達と一緒にいるのとか見ちゃうと話しかけづらくない?」

 「いや弱っ」とヤマが笑う。「なんでよ。普通に話しかけに行きゃあいいじゃん」

 「いやあ、勇気なくて」と私は苦笑する。

 「別に変な別れ方したわけでもないんでしょ? 受験の直前に喧嘩したとか」

 「そういうのは……全然」

 「だったら話しなよ。友達も待ってるんじゃね? そうだよ、その友達の友達も奪うくらいの気でさ」

 「うーん……」

 ふと、ヤマが噴き出すように笑った。

 「押村って、なんかすごい優しいな」

 「え? いや、そんなことないよ」

 「いいや、優しいよ」ヤマはきっぱりと言った。

 優しい――か。

 「そうかなあ……」

 私は一人の男子を振り返った。

 もしも私がそうなら、彼はどうなるのだろう。視線の先で、彼は思い出したように席を立った。特別に背が高いわけではないけれど、顔が小さく細身なので、すらりとして見える。私はどこかへ歩いていくその姿を目で追う。

席で文庫本を開いている女子の横で足を止めると、彼はなにかを差し出した。女子もそれに明るい表情で接し、差し出されたものを受け取った。そして困ったような表情でなにかを話す。彼はそれを、穏やかな表情で、時に困ったような顔をしながら、頷きながら、なにかを話しながら、聞いている。タカノヤマ、ソラ。もしも私が、ヤマの言ってくれるように優しいのなら、彼はどうなるのだろう。