教室に戻ると、隣の席のヤマ――愛称は苗字の高尾に由来する――が「どうだった?」と訊いてきた。口元と目の奥に楽しそうな色が滲んでいる。

 「説教説教」と、父の訛りを意識して答える。「ああに寝てっから呼ばれた時に答えらんねえんだつってね」

 「袋田は怒ると訛るんだ」とヤマは感心したように頷く。

 「今度怒られてみ?」と返すと、彼は「嫌だよ」と困ったように八重歯を見せた。

 「てか、押村って出身どこ?」

 「ここだよ」

 「まじか……」

 ふうん、と言って、ヤマは考えるように顎を触った。

 「どうして?」と尋ねれば、「訛りが本当に地方の人みたいだから」と言う。

 「ああ、お父さんがこの辺よりちょっと北の方でね。地方ってわけじゃないんだけど、気を抜くと訛ってるんだ」

 「へえ、そうなんだ。じゃあ、お母さんはこっちの人?」

 「いや、そういうわけでもないんだ。お母さんはもっと南西の方で」

 「ふうん。面白い出逢いもあるもんだね。うちの両親は揃ってここだからさ、そういう親の出身地が違うって、よくわかんないんだ」

 「なんだったかなあ、共通の友達だか知り合いがいたとかで会ったらしいよ。そのキューピッドがここの人だとか。その三か所を結ぶものはなにかっていうのは、気にしちゃいけないのかも。それぞれが学校の同級生とか、どっちかがキューピッドと同級生で、もう一方は会社で出会った……とか、いくらでもあり得るからね」

 「うーん。面白い」

 「ヤマの方は? 他県に知り合いとか友達、いないの? 違う学校とか」

 「そりゃあ、違う学校くらいなら。おれより賢い学校進んだ友達も少なくないし。他に行けるとこがなくて、すげえ遠くに行ったのもいるし」

 「その人たちが、今度ヤマに素敵な人を連れてくるかもよ? ほら、その遠くの学校に行った人なんかが、そこで生まれ育った人を紹介してくれれば、ヤマはこっちで生まれ育ち、相手はあっちでっていう二人が出来上がるわけさ」

 「おおー」とヤマは目を輝かせる。「おれ、最後の最後まで地元しか知らずにいるんだろうなって思ってたけど、なんか希望見えてきたわ」

 「世の中なにが起きっかわかんないからね」

 言いながら、私にもこれから面白いドラマがあったりするのだろうかと期待した。

 「いやあ、ちょっと近いうちにキシでも揺すってみるかな」とまじめな様子で言うヤマを、私は「脅すな脅すな」と笑う。しかし彼は、「いやアオもいけそうだな」とまじめな様子で考えている。