「夜久さんって、彼氏とかいるの?」

 沈黙が落ち着かないのか、早々に新しい話題を持ち出してきた。俺は四枚集めた紙の端を机に当てて整え、ホチキスで留めた。

 「彼氏?」

 俺は男だぞ、と言いかけた舌の震えを、ちらと視界に入った制服のスカートで飲み込む。

 「いないよ」と答える声は確かに自らのものだが、限りなく女のものだった。

 「へえ、なんか意外。男子が放っておかなそうなのに」

 「そうか?」

 「うん。だってすごい綺麗な顔してるもん」

 「見た目だけで寄ってこられても迷惑だけど」

 「おお、かっこいいねえ。私なんか、男子は見向きもしないような見た目だもんで、一回でいいからそんなこと言ってみたいよ」

 「そうか?……普通にかわいいと思うけど」

 「え?」

 俺は彼女に顎の先を向けた。彼女は途端に顔を赤らめ、「ぐふっ」と笑う。

 「なにをそんな意中の相手にでも言われたような」

 「だって、初めてだもん、こんなこと言われたの」

 はあ暑い、と、彼女はまとめた紙で真っ赤に染まった顔を扇ぐ。

 「まったく、夜久さんが男だったらもうイチコロだったよ」

 俺は「残念だったね」と笑い返す。

 「あたしは女だよ」と続けながら、人を騙しているような感覚と、自らの吐いた言葉が実際には決して嘘ではない事実に肌が粟立つような気味の悪さを感じた。歌舞伎かなにかでは、女形なんて言って男が女を演じるらしいが、そういう男もこんな感覚なのだろうかと淡い期待のようなものも芽生えたが、途端に好きでやっているのだから違うだろうと思い直して、自らの置かれた状況を見た。