「よしよし。かわいいなあ、君」

 猫の毛は本当に柔らかい。触っているだけで癒される。

 家の前に、よくこの猫の姿を見かける。この辺りに住み着いているのかもしれない。人に対する警戒心が薄く、かつて飼い猫だったのではないかと想像しては胸の奥が痛む。人と別れる悲しみを知っている飼い猫より、人のぬくもりを知っている野良猫であってほしい。

 ごろんと天に向けられた白と茶色の混じったお腹を、わしゃわしゃと撫でる。この猫は毛並みも悪くない。これに対して、ひとりで散歩に出かける飼い猫であることを願う身勝手。

 自らも地べたに寝転んで、左手でふわふわを撫でながら右手でシャッターを切る。近頃、こういった構図が気に入っている。猫だけでも十分、いや十二分にいい写真が撮れる。それでも、敢えて人間の手を入れることに、はまっている。