彼女は震える息を吐き出して、洟を啜った。

 「もう……終わらせてくれ」と、幽かな声が言った。静じゃない。女の声だった。

 見れば、光を失った獣のような目が、静かに泣いていた。「もう、壊してくれ」と彼女は言う。

 おれは必死で首を振った。「だめだ」と。おれにそんな力はないし、もしもそんなことをしたら、君はどうなる。

 「もういいんだ」と、彼女は包帯に包まれた手で、おれの頬に触れた。

 「……よくない……」

 消えてしまう前に、壊れてしまう前に、どこか暖かい場所へ行こう。晴れた日ののんびりした柔らかな空気を吸って、それから考えよう。……こんな悲しい顔をしたまま散ってしまうなんてあんまりだ。

 「……あたしを、作り直して……静を作ったみたいに……」

 「できない」

 「あんたは綺麗だ」と、口角がほんの微かに上がる。「あたしでさえ、壊せないくらい。……染めてくれ、あんたの白いところで」そして、と、光の戻ったような目が、泣きながら笑う。「そんで、生まれ変わらせてくれ。……うんざりするくらい、綺麗に」

 彼女の華奢な体を寄せて、強く抱きしめる。集まってきたピースが離れてしまわないように。

 「君は綺麗だよ。悲しいくらい、真っ白」穢れているんじゃない、綺麗すぎるのだ。

 「嘘だ」と泣く体を少し離して、おれは彼女の頬を伝う純粋を、慎重に、指で拭った。この無垢な心が壊れてしまわないように、けれどこれからを生きていけるくらいには、染められるように。見れば、どうしようもなく綺麗な、穢れを知らない目が、ほんの微かに笑った。

 難しい言葉はわからない。難しいことはできない。けれど、唇の奥に生まれた言葉があった。

 もう一度抱きしめて、髪を撫でる。

 「愛してる」

 背に回った彼女の腕が、きゅっと力を込めた。愛おしい幸福感に、溶けそうになる。