「ごめん」と言う押村さんに、「謝んな」と綸が痛々しく叫ぶ。

 「違うんだよ」と、声が泣く。「俺はそんなのが欲しいんじゃない。俺はお前を従えたいんじゃない。お前と一緒にいたいんだよ。そんな風に跪かれたいんじゃない。なにかを誓ってほしいんじゃない。護ってほしくなんてないし償ってほしいわけでもない。対等になりてえの。ただ、対等に」

 「綸……」

 地面が、大粒の雨が降り始めたように、丸く色を変えていた。押村さんは背を震わせ、獣の目は抱えきれない涙を流している。

 「俺はお前が大嫌いだ。一緒にいてくれないし、変に気ぃ遣うし、くだらない話で笑わせてくれることもなくなった。……なあ、お前はいつから変わっちまったんだよ。なんで一緒にいてくれなくなっちまったんだよ。……俺が、お前のことも変えたのか? 俺が壊れちまったから……俺が弱いばっかりに……お前まで壊れちまったのか……?」

 明美っ、と、綸が訴えるように、縋るように叫ぶ。

 「なあ、俺らどこで間違えたんだよ」

 綸が、洟を啜った。

 「明美っ、答えてよっ」と少女の声が叫ぶ。その主を見れば、美しい少女が泣いていた。真っ白な目が、明るい茶色の虹彩を抱えている。白い頬を、繰り返し涙が伝う。

 「一緒にいてよっ、今までみたいにっ。面白い話聞かせてよっ」

 洟を啜った綸が、震えた息を吐き出す。

 「あたし、明美と話すの好きだったんだよ。明美、途中でなに言いたいのかわかんなくなるし、オチだってないけど、あたしに向かって話してくれる明美が好きだったの。明美しかいないんだから」

 押村さんが、ふらりふらりと立ち上がった。あんなにも小さかった押村さんが、綸よりもほんの気持ち、大きくなる。彼女はそっと、けれど強く、綸を抱きしめた。

 「ありがとう……ありがとう、綸」

 「なんで置いてったの……? ずっと待ってたんだよ……」

 うんうんと、押村さんは何度も頷く。

 「明美さえいてくれればよかったのに……それだけだった……それだけで……よかったのに……」

 押村さんが頷きながら、綸の髪を撫でる。

 「もう、嫌だよ……明美を待つの……。怖いよ、一人は……寂しいよ。……もう……いなくならないで……」

 「わかった。もう一人にしない」と、押村さんが綸の背をさする。「ずっと一緒にいる」と、強く抱きしめる。「みんなが飲み散らかしてる間、二人でいろんな話をしよう」

 今度は綸が頷く。

 「オチなんてなくていい。内容も意味もなくていい。ただ……」

 「うん、一緒にいよう」

 ね、と言う押村さんに、綸は何度も頷く。

 「ごめんね、綸。辛い思いいっぱいさせた」

 ごめんね、と言う押村さんへ、綸は泣きながら、「許さない」と、優しい声で答えた。