中庭に出ると、日垣は「なんの話ー?」と、押村さんと青園と合流した。おれは静と二人、ベンチに腰を下ろす。

 「明美も、面白いもの作ったよね」

 「本当だね」

 静と一緒に振り返ってみると、「日垣ちゃんまで裏切るの⁉」と押村さんが声を上げた。

 「押村さん、大分感じ変ったよなあ」

 何気なく呟くと、静は「そうなの?」とおれを見た。

 「前はもうちょっと静かな感じだったんだけど」とおれは苦笑する。

 「高野山君と一緒だったからじゃないの?」と静は言う。「人って、一緒にいる相手によって変わるものだから」と。

 「いや、八方美人みたいなことじゃなくてね。ちょっとした話し方とか、表情とか、そういうのって変わるじゃん」

 「そうなのかなあ」

 「ああ、高野山君は変わんないか」と、静は苦笑するように言う。

 「本当、高野山君には傷つかないでほしいよ」

 「……静は、傷ついてばかりだもんね」

 「ああいや、そんな意味で言ったんじゃなくて」

 「わかってる。そんなことが言えたなら、静はそんなに苦しい思いしてないはずだから」

 でも、と、静は正面を向いて、俯いた。

 「助けを求めるって、難しいよね」

 「うん、そうだね」

 静のような人には、難しいだろう。

 「自分が助けを求められるほど苦しんでるのか、わからない。もっと苦しんでる人がいる中、助けを求めるのは気が引ける」

 おれは思わず笑いそうになった。「静だって、うんと優しいじゃん」

 「そんなことない。びびりなんだよ」

 「……そうなの?」

 「怖いんだ。助けを求めた時、お前に構っている暇はないと、手を掴んでくれる人がいないのが。助けを求めた時、誰にも気づかれないことが。それなら最初から、なにも求めない方が気楽じゃないか」

 「……そうかもしれないね。だけど、誰かしら見つけてくれるよ」

 「それまで待ってるのか?」そんなばかな、と静は力なく笑う。「そんなことしてたら溺れちゃうよ」

 はあ、と静は息をつく。柔らかな青色をした空を見上げる。それから、おれを見た。「世の中にいる人がみんな、高野山君だったらいいのに」

 「中身のない世になるね」

 「そう?」

 「多分ね」とおれは笑ってみた。