お茶を飲んで、将来のことを話して、冗談を言い合って、お茶を飲んでと過ごした。部屋の扉を開けた時に感じた仄かな甘い香りにも、くすんだ白と黄色で統一された女性らしい家具にも、すっかり慣れていた。今ここには、男二人、おれと静だけがいる。

 「本当に、高野山君と二人で旅ができたらいいな。綸とも上手くやっていってさ。綸に嫉妬されない程度、しない程度に交代、なんてやって」

 そんな風に生きていけたらな、と、静は大窓の外を見た。手入れの行き届いた綺麗な庭が一望できる。ささやかな家庭菜園ができる程度の小さな庭にしか親しみのないおれには、それは異世界のようにすら感じられる。

 「しかし広い庭だね。大型犬ですら、放してあげれば散歩が要らなそう」

 「それは大げさでしょう」と静は笑う。

 「家族が一斉に帰宅すれば渋滞するような庭しかないおれからすれば、ここはドッグランだよ」

 「芝生だしね」と言う静に、「芝生だし」と頷く。

 「庭の手入れは誰がしてるの?」

 一泊置いて、彼は「母さん」と答えた。自分の母親という感覚が薄いのかもしれない。

 「部屋だか建物だか、そういうデザイナーやってるんだよ。フリーで」

 「へえ、フリーなんだ」そういった仕事をしていることは綸に聞いていたけれど、フリーランスとは初耳だった。

 「そう。そんで園芸も趣味なもんで、ちょくちょくいじってる」

 「へええ。うちの母親は観葉植物枯らすような人だからさ。そういうの、羨ましい」

 「観葉植物……部屋に置いておくやつでしょ、え、あれって枯れるの?」

 「枯れるんだよ。育てる人によっては」

 「まじか……」と呟く静に、おれは「そうなんだよ」と返す。

 十七時を少し回ったところで、おれは静の部屋を出た。

 玄関で「レモンティーすごいおいしかった」と伝えると、静は「おれが淹れたんだから」と、慣れないように笑った。

 「よかったらまたきてよ」

 「うん、また誘ってよ。……くれぐれも冗談では誘わないようにね。まじでくるから」

 「おお、それは嬉しい」と静は笑う。

 「また明日、学校で」と手を振って、「またね、高野山君」と微笑んだその静の顔が、よく遊んだ頃の綸によく似ていて、胸が震えた。

 「どうした?」と困った顔をする静へ、「なんでもない」と笑い返す。「また」と手を振ると、「おう」と同じように返ってきた。背後で、そっと扉が閉まる。