店の前で、一つ深呼吸する。想像を上回る素敵な出会いがあった時に大声を上げないために。大丈夫大丈夫、くまちゃんはかわいいものだ、ああいうものなのだ、と自らに言い聞かせる。

 よしっ、と顔を叩いて、ようやく店に足を踏み入れる。

 手前の化粧用品や真ん中の文房具、バッグには目をやらず、一番奥のぬいぐるみの売り場へ直行する。バッグの売り場はこのあと覗く。いつもはないのだけれど、今回はくまのリュックがあるかもしれない。くまのぬいぐるみをそのまま背負っているようなリュックが。

 ぬいぐるみの売り場には、猫やうさぎと一緒に、くまのぬいぐるみもたくさんある。その中で、最も好みの子を探す。そういった好みの子というのは、いつも、目が合うような、意識が自然とそちらへ引かれるような、不思議な魅力がある。今日はそんな子に会えるはずなのだが――。

 実際、きょとんとした顔のくまちゃんふたりに惹かれ、私は迷わず会計に向かった。出費は三千円ちょっと。三百円のおつりが返ってきた。これでアイスクリームでも食べるか、自動販売機で飲み物でも買うか、あるいは安いものを探してイヤリングでも買うか。大事に財布の中に残しておくという選択肢もある。

 ――二択だなあ。

 アイスか残しておくか。

 「……よし」

 アイスだ。マークでソフトクリームを買っていこう。マークの入っているフードコートはこの階だ。フードコートは三階にもあるのだけれど、そちらは随分とおしゃれな雰囲気で、高校生の握りしめたお小遣いと交換できるようなものはない。フードコートに限らず、三階は全体的に大人びている。バッグも洋服も装飾品も、一つと交換するだけで私の財布はすっからかんになるだろう。むしろそれでも、なに一つ手に入らないかもしれない。