「でも、キッチンカーで日本一周の旅とか楽しそうだな」

 「まあ、誰かアシスタントみたいなの連れてやることだね。そのうち絶対破綻するから」

 「そうかなあ。足りなけりゃ他で働くよ」

 「だったらあと二百円上げなよ」

 「ええ……五百円玉はあるのに百円玉ないんだけどって時、そういうの見ると切なくない?」

 「おれなら五百円玉二枚か英世さん出す」

 「なんでそんなに持ってる前提なの」とおれは苦笑する。「持っててもそんなに使いたくない時あるでしょう」

 「へええ。複雑なもんだねえ」

 「買い物はそれとの闘いだよ」

 なにせおれなんて、端切れ一枚のために限界までハミガキを絞り出すのだ。

 「で、静はどうするの?」

 「おれは……そうだなあ……。それまでここにいることがまず、目標かな」

 「いられるよ」とおれは言った。自分でも驚くくらい、きっぱりと言った。根拠はないけれど、自信はあった。静は消えない、静はいなくならないと。

 「絶対にいられる。だから、なにになりたい?」

 静はふっと笑う。「根拠は?」

 「おれがそう言えば、そうなるんだ」

 静は一瞬驚いた顔をすると、みるみるそれを崩して、大きな口を開けると、はははと声を上げて笑った。華奢な腕が薄い腹を抱える。途中、ひいひい言いながら、その合間にお腹痛いと言った。「あっはは、いやっ……まじで最高だよ、高野山君。最っ高だっ」

 「嘘じゃないよ」と、おれは本気で言った。「静は消えない」

 実際のところは、おれの願望でしかないのかもしれない。けれどそれ以上に、静がいなくならないという自信があった。それさえおれの願望であると、自信を持っていたいというおれの願望であるとしてしまえばもうどうしようもないけれど、おれは自信を持って、静はいなくならないと言った。それもまた事実だ。