「もう四月も終わりに近いね」と静は言った。「こんな感じで梅雨入りして明けて、気が付けば進路に追われるわけでしょう。高野山君は将来、どうするの?」

 おれはため息をついた。「せっかく忘れてたのに」と。けれど、押村さんとよりはまともな話ができそうだ。

 「どうしようかなあ。大学も辛そうだし、就きたい職業もないし……」

 「せっかくいろんな趣味があるんだから、写真家とか料理人とかどう?」

 「趣味だから楽しいんだよ、ああいうのは」

 「小さい食堂でも開くとか。全品九百八十円とかにして、一見安く見せて釣り合いとってさ」

 「なんかすげえ計算高い」

 「これが商売ってやつよ」と静は片頬で笑う。

 「心痛むよ、そんなの」

 「そうでもしなきゃ、高野山君の体が傷むんだよ」

 「ああでも、キッチンカーとかであちこち回るのは楽しそうかも。軽食っぽいのを、全品五百円にしよう。切りもいいし」

 「五百円でどうやってガソリン入れるのさ。食材はどう手に入れる?」

 「そこは、農家さんとかとうまく話しつけてさ。食材としては問題ないけど、商品にはできないみたいなのを安く売ってもらったりして」

 静はくしゃくしゃと髪を乱した。「ああ……もう……。なんか見てて心配になるよ、高野山君は。お人好し過ぎて、人間に一番必要ななにかを忘れてる気がする」

 「ええ、気のせいだよそんなの」

 「でなきゃ一食五百円でやっていこうとか考えないよ」

 「五百円も取れば充分でしょう」

 大しておいしくもないだろうし、と言えば、静は瞬時にそれはだめだと首を振った。そんでワンコインじゃだめだと。