玄関に入ると、静は端に靴を脱いだ。綸も脱いだ後に端へ置いていたなと思い出す。

 「高野山君は飲み物、なにが好き?」

 廊下を歩きながら、彼は言った。

 「レモンティー」

 「おいしいよね。紅茶、おれも好き。アイスでいいよね」

 「ありがとう」

 静は柔らかく微笑むと、「先に部屋行ってて」と言い置いて、リビングに入っていった。思い出したように顔を突き出してくると、「洗面台の横のドアは開けないでね」と言った。「わかった」と頷いて、おれは玄関の正面に下りてきている階段を上る。

 廊下や階段には、あの頃から絨毯が敷いてあった。洒落た手すりといい、広い廊下といい、まるで洋館だ。個性豊かな男女が四、五人集められたら事件が起きそうだ。あるいは、ロココ調の服に身を包んだ大勢が宴でも開いていそうな。

 かつて遊んだ部屋の扉を開くと、中は貴族でも暮らしていそうな装いだった。くすんだ白と黄色を基調とした、えらく広い部屋。そこに暮らしているのは、明らかに女性だった。

 まずい。入れない。同性の友達の部屋だと言い聞かせても、視覚からの情報がそれを否定する。

 「高野山君」と声がして、びくりと体が震えた。

 「どうしたの、御霊でも見えた?」

 振り返ると、静が二つのグラスの載ったお盆を持っていた。

 「え?」

 「大丈夫、その子、悪さはしないから」

 「はい……?」

 「おれの友達みたいなもんだよ」

 「……誰」

 「ミカちゃん」

 「ミカちゃん⁉……え、まじで言ってんの?」

 「まさか」と肩をすくめて、静はなんでもないように部屋に入った。テーブルにお盆を置いた。「なにもないから大丈夫だよ」と笑う。「高野山君、ホラー苦手?」と。「ちっとびっくりしただけだし……」と答えながら、おれは部屋に入った。

 「扉閉めるでしょ?」と確認すると、「ああ」と肯定的な声が返ってきて、おれはそっと扉を閉めた。