「本当、最高だ」と、静は言った。柔らかく微笑む目で、窓の外を眺めている。

 「おれ、学校でこんな風に、誰かと話せると思わなかった」

 「……ずっと綸を演じるつもりだったの?」

 「そうするしかなかったんだよ。名前もないし、体は女だし、夜久綸としている方が楽だと思ったんだ」そう言って、静は自嘲気味に笑う。「まあ、日垣さんには思い切りヘマしたんだけど」と。

 「ヘマ?」

 「家の方向が一緒だったから、途中まで一緒に帰ったことがあったんだよ。その道中、ぽろっと。日垣さんはなにも言わなかったんだけどさ。むしろ、別にいいじゃんって。でもおれとしては、ああ終わったなと思った。この世にいもしないおれが誰かと接しちゃったらさ、いざ消えた時、綸が困るだろう?」

 「……静は、本当にいなくなっちゃうの?」

 「言ったろ、この世界は脆いんだよ。神様の気まぐれで、おれはどうにでもなる。消えるかもしれないし、この体が終わるまで、今のまま在り続けるかもしれない」

 「……静は、どうしたいの?」

 「どうしたいもなにも」と彼は肩をすくめる。「神様次第だ」と。

 「高野山君はどう。このまま、綸がいなくなったら。帰ってこなかったら」

 もっとも、神様不在の世界がうまく回るかわからないけど、と彼は口角を上げる。

 「……そりゃあ、悲しいよ。でも、静がいなくなるのも寂しい」

 静は大げさにため息をつく。「本当、どうっしようもないお人好しだねえ、高野山君は」と言って苦笑する。

 「わがままなんだよ」

 「それなら、綸が好きなんだからおれを疎んでくれればいい。おれは高野山君と綸の再会を邪魔する、綸の体に寄生した害虫なんだ」

 「そんなことない。おれは静が好きだし、間違ってるのかもしれないけど、勝手に思ってるだけだけど、静は綸の一部だと思ってる。静がいなければ、綸はいられないんだと思ってる。……だから、静を疎ましく思うなんてできない。おれは、わがままだから」

 「そうみたいだね」と、静はぽつんと言った。「高野山君はわがままだ」と、最高だ、と言う時のように笑う。「綸に会いたいくせに、おれとこんな風に一緒にいてくれるなんて。本当、最っ高にわがままだ」

 どうしようもないよ、と、静は悲しく笑った。胸の奥のざわめきを増すように、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。

 「じゃあまた放課後、中庭で」とおれの肩を前から叩いて、静は自分の教室へ、二組の教室へ、戻っていった。