「昼食、なに食べた?」

 言いながら眺めていた先で、すずめのような鳥が、木の枝から飛んで行った。

 「サンドイッチ。玉子のと、レタスとハムの。高野山君は?」

 「おれは和食。作り置きしてあるおかず、適当に詰めてきた」

 「料理するの?」

 「おれ、多分一般的には多趣味な方に入ると思うんだよ。その一つ」

 「へえ、他にはなにが趣味なの?」

 「散歩とか、写真とか、ちょっとした絵を描いたり。美術と料理と歴史に偏ってるけど、読書も好き。手芸も好きだよ。音楽聴くのも。あとなにより、こうやって外の景色見てるのが好き」

 「本当に多趣味だ」と静は笑う。

 「静は?」

 「おれはなにも」と、軽い調子で首を振る。「でも……敢えて挙げるなら、生きることかな」

 「深いねえ」

 「そんなんじゃなくてね。今は、生きるのが楽しい」

 静はおれの隣について、窓の外を見た。空いた枝に、別の鳥が飛んでくる。

 「高野山君はさ、綸に会いたいと思わないの?」

 胸の奥に、重たい影が流れてきた。

 「……どうして?」

 「なんとなく」

 「会いたくないとは少しも思ってないよ。でも、おれは満足してる」

 「“静”に?」と、彼はいたずらに笑う。「綸が悲しむよー?」と言う様子には、いたずら好きな子供のような色が滲んでいる。

 ふと、「空ー、シャー芯貰ったー」と男子の声が飛んできて、おれは「おー」と答える。

 「え、いいの?」と静が驚いたように言う。

 「構わないよ」とおれは答える。

 「え、友達?」

 「四限目で班組んで、一緒だった人」

 「ふうん」と頷いて、静は噴き出すように笑った。「やっぱり、救いようがない」と。

 「高野山君って本当にお人好しだよね。そのうち、今みたいなノリでお金とかあげちゃいそう」

 「そんなことないよ」とおれは苦笑する。「目的による」と。
 
 「金額は?」と驚いたように言う彼へ、「あまり多くちゃ困るけどね」と答える。

 「やっぱりばかだあ」と、静は楽しそうに笑う。「そのうち騙されるよ」と。

 「多分気づかないよ」とおれが言うと、静はまた笑った。「最高だ」と。