自分の部屋が綺麗に見える。ドレスを着た女の子が過ごしていそうな部屋。甘い雰囲気が流れている。当然のようにここで寝起きして、着替えてとしていた日々が、遠い昔のようにすら思える。昨日までの出来事。

 そっと、ベッドに触れてみた。おれはここ数日、ここで眠って、目を覚ましてを繰り返していた。布団を撫でる手が、どんどん滲んでいく。歪んでいく。

 ――ああ、おれは生きていたんだ。生活をしていたんだ。

 歪んでゆらゆらと揺れた景色が、生暖かい透明な一滴として、手の甲に落ちて弾けた。新しいそれらは、一つは頬を伝い、一つは鼻先を伝い、手や布団に落ちて弾ける。鼻の中を伝うそれを啜ると、呼吸が乱れた。ひっ、ひっ、と鳴きながら、喉が空気を吸う。膝ががくんと崩れて、おれはベッドに縋った。

 ――おれは生きていた。ちゃんと、ここにいた。ただ、それを知らなかっただけだった。それが愛おしくて堪らない。生きていたんだ。吸って、吐いて、眠って、起きて、脱いで、着て、出て、入った。おれはここにいた。ここで、生きていた。そこに存在しなかったのは、他ならないおれの意識だけだった。それが、名前を貰って、誕生日を貰った今日、ここへやってきた。やっと、おれはおれを見つけた。

 初めて、自分を許せた。自分の中に、温かいものが流れてきた。それに満たされていく感覚が、慣れていなくて少し苦しい。けれど、嫌じゃない。痛みもない。誰かの愛を感じる瞬間がこれに似ているのなら、今おれを愛しているのは、生きていたおれを見つけた、おれ自身だろう。